担当者氏名 土屋 貴志
作成年月日 2009/9/2
報告フェース情報
著者 村國 茂
著者肩書 陸軍軍医学校軍陣防疫学教室(主任 石井少将)陸軍軍医大尉
著者2  
著者2肩書  
著者3  
表題 ケオピスネズミノミ(Xenopsylla cheopis Rothschild)に関する実験的研究 第9編
副題 人工飼育の可能性に就いて
 出典著者  
 出典表題  
 出典雑誌・書籍名  
 出典頁  
 出典発行年  
 出典社名  
344
種類 原著
分類1 385-6
分類2  
分類3  
分類4  
受付 昭和17(1942).4.20
印刷数  
米国メモの有無
米国メモ  
終了頁 75
索引用人名 緒方規雄、Andre, ch., Bruce W.G., Eagleson, C., Cornwall, J.W., La Frenais, H.M., Duncan, J.T., Falke, H., Glaser, R.W., Hertig, A.I., Hertig, M., Hindle, E., Merriman, G., Johnson, H.A., Krijgsman, B.J., Windred, G.L., McGregor, M.E., Lee, C.M., Moskwin, I.A., Rivnay, E., Shortt, H.E., Swaminath, C.S., Nutttal, G.H.J., Issajew, L., Totze, R., Woke, P.A., Pettenkofer, Max v., 石井軍医少将閣下、教官内藤軍医少佐殿、満洲第731部隊田中技師、同朝比奈技師、台大大森南三郎助教授、城大小林晴二郎教授、九大江崎悌三教授、東大阿部徹氏、東大附属植物園古川晴男氏、兵庫県庁宮田〓[判読不明]徳氏、雇員・田中千秋、雇員・高橋喜平次、松本省三、宮澤七郎、石井猪三郎、内田喜八郎、星島協、島村森道、樋口今朝登、升谷子之吉、加々美栄一、青山喜久雄
索引用方法 人工飼育、飼育、吸血、繁殖
索引用材料 ケオピスネズミノミ、I.M.装置
索引用対象名 ケオピスネズミノミ
索引用疾病名 ペスト
索引用地名 陸軍軍医学校防疫研究室
索引用その他  
参考文献(邦) 2
参考文献(欧) 26
22
23
抄録様式1
背景 ケオピスネズミノミは産卵に吸血を必要とする。「蚤の生理生態学的実験材料獲得の為少数の蚤を飼育せんには、大黒鼠等を以て容易に飼育し得。しかしながら極めて多数の蚤を必要とする場合、所謂大量生産に当たりて斯くの如き自然的方法を以て飼育せんとせば、勢い極めて多数の吸血源を要することとなる」ので「人工的装置により比較的入手しやすき物質を血液の代用として用ふる飼育方法を企図」する
目的 人工的機械的飼育の可能性を探ることで「所謂吸血性昆虫の食性の本態」を究明する
方法 1)ゴム製サックおよびフィッシュスキンに、山羊脱繊維血、山羊加クエン酸血ないし馬加クエン酸血を入れて摂氏40度前後に保ち、24〜48時間飢えさせた成虫蚤を入れて観察する。2)37〜38度に保温した山羊脱繊維血、馬加クエン酸血、ないし馬脱繊維血を満たしたシャーレに0.03mm厚のセロファンを張り、その上に24時間飢えさせた蚤100匹を載せて成虫数および体重の減少を計測。3)コルベンの中間にマウスの表皮(0.15〜0.17mm厚)を張り、山羊脱繊維血10〜15ccをマウス皮の下部に入れ、24〜48時間飢えさせた成虫蚤雄20匹雌34匹を5匹ずつ上部に入れて口を布で覆い、登攀用濾紙を入れた後、コルベンを倒立させて、38〜40度に保温、蚤を顕微鏡で観察。4)3に用いた以外の動物膜15種類(脱毛マウス外皮、脱毛ラット外皮、刈毛ラット外皮、脱毛海猽外皮、刈毛海猽外皮、刈毛家兎外皮、刈毛溝鼠外皮、刈毛埃及鼠外皮、刈毛家鶏外皮、刈毛家鶏雛外皮、脱毛家鶏雛外皮、刈毛鳩外皮、0.025mm厚フィッシュスキン、牛腸膜、魚鰾漿膜)にて3同様に吸血実験。5)人工製造できる非動物膜9種類(ゴム膜、セロファン紙、糊で凹凸をつけたセロファン、マウス毛を糊で付けたセロファン、パラフィン、和紙、羽二重、片面起毛した絹2種)で3同様に吸血実験。6)山羊脱繊維血以外の養液を吸引するか否かを、人、馬、牛、綿羊、ラット、家鼠、マウス、家兎、鳩、家鶏、海猽、生理的食塩水、ブイヨン、蒸留水、糖水、赤インキなどを用いて3と同様に実験。7)3の吸血実験装置で光源の発熱により山羊血温がどのように上昇するか調べ、0度近くから27度(室温+3度)の間で、蚤が何度から吸血を始めるか観察する。また40度ないし50度からどのように山羊血温が低下するか調べ、何度から蚤が吸血を始めるか観察する。8)3の実験装置(「I.M.(石井・村國)装置」に成虫雄雌10匹ずつ計20匹入れて30日間飼育し繁殖の有無を調べる。さらに、I.M.装置で吸血させた後大型ガラス円筒に移して繁殖の有無を調べる。9)8で発生した第2代蚤をさらにI.M.装置で吸血させた後大型ガラス円筒に移して第3代蚤が発生するかどうか調べる。10)9の実験を山羊加クエン酸血で行う。11)9の実験を馬血清を養液に用いて行う。12)採血後の経過時間が、直後、1時間、6時間、24時間、48時間、5日の山羊脱繊維血をI.M.装置に入れ、吸血させた後蚤を大型ガラス円筒に移す作業を20日間続け、吸血率と斃死率を算出する。13)飼育中死から1〜10日目の大黒鼠から表皮を取り、死亡直後〜10日目までにI.M.装置に付けて蚤10(雄5雌5)匹を入れ、吸血するかどうか観察する。14)I.M.装置を飼育器内環境に近づけるべく5種類の改良を加え次代幼虫発生の有無を観察する
材料あるいは対象 ケオピスネズミノミ、山羊血、馬血、クエン酸、ゴム製サック、フィッシュスキン、試験管、大型シャーレ、セロファン、ガラス円筒、シンメルブッシュ殺菌器、マウス表皮、エルレンマイヤーコルベン、グリノー式双眼実体顕微鏡、エヴァ[脱毛剤]、ラット外皮、海猽外皮、家兎外皮、溝鼠外皮、埃及鼠外皮、家鶏外皮、鳩外皮、牛腸膜、魚鰾漿膜、パラフィン、和紙、羽二重、絹、「I.M.装置」、蚤分離器、ガラス円筒、大黒鼠
研究対象(実施)年月 昭和15(1940)年8月〜昭和16(1941)年4・5月?
場所 陸軍軍医学校防疫研究室第22研究室
結果 1)ゴム製サックおよびスキンは表面が平滑で蚤が取り付けず吸血できない。2)セロファンの場合は成虫数および体重の減少が少ないことから吸血した可能性大。3)マウス表皮の場合は吸血膜まで登攀できた蚤はみな吸血する。宿主動物の生血でなくても吸血できる条件が揃えば蚤は吸血する。4)マウス以外の動物膜でも吸血するか否かは膜の厚さ、硬度、弾力性、表面の平滑度、起毛、皺襞の有無などを条件とする。脱毛剤の臭気は関係なし。5)非動物膜でも4と同様の結果。起毛&防水した絹織物が有望。6)動物血ならば山羊血同様にみな吸血する。血清も吸血。7)吸血を始める最低温度は室温22〜24度時に12〜13度、平均約15〜16度と宿主動物体温より随分低い。15分以内で満腹する。また最高温度は41〜40度、平均38度と宿主動物体温より高い。概ね10分以内に満腹。8)I.M.装置内では蚤は繁殖できず。I.M.装置で吸血させた後大型ガラス円筒に移した場合は次代成虫が発生するが、繁殖率は1未満。9)発生した第3代蚤は1匹だけで約1か月後に死亡、全滅。10)クエン酸を加えた山羊血では次世代幼虫は発生しない。11)馬血清では次代幼虫は発生しない。12)採血後24時間以内の山羊脱繊維血が養液として適当。13)大黒鼠表皮は死後7日目までに剥皮し11日目までに用いれば吸血膜として使用可能。蚤は腐敗臭に関係なく吸血。しかしながら死後なるべく早く剥皮使用したほうがよい。14)I.M.装置に5種の改良を加えても繁殖不可能か繁殖率極めて低い
考察 蚤は人工的装置内で山羊脱繊維血でも次代成虫が発生したので、宿主動物の生血でなければ繁殖しないという従来説は誤り。しかし人工装置および山羊脱繊維血では繁殖率は極めて低く絶滅する。その原因は食物にあるのかどうか不明。しかし繁殖条件は食物だけでなく、物理的化学的環境、交尾空間の広さ、天敵にもある。吸血以外のこれらの要因が解明されれば人工的装置による累代飼育も可能になるだろう
結論 蚤は山羊脱繊維血でも産卵しうるが、第3代まで飼育したところ繁殖率低く絶滅した。蚤の発生を制約するのは食物だけではないので、食物以外の蚤の生活諸条件を解明することが重要
注目すべき事項
本文中 「余は昭和15年8月、本研究を命ぜられ、引続き続行し来たりたるものにして」「本研究を命ぜられ、終始御懇篤なる御指導を賜わりたる、石井軍医少将閣下に深甚なる感謝と敬意の誠を捧ぐ。又、研究に当り、絶えず御鞭撻並に御助言を賜わりたる教官内藤軍医少佐殿に深謝し、有益なる御助言或は文献の御教示を賜わりたる満洲第731部隊田中技師、同朝比奈技師、台大大森南三郎助教授、城大小林晴二郎教授、九大江崎悌三教授、東大阿部徹氏、東大附属植物園古川晴男氏、兵庫県庁宮田〓徳氏の諸氏に感謝す」。実験3以降のコルベン倒立による吸血装置を「I.M.(石井、村國)法又はI.M.装置と呼称す」。
図表  
その他  
脚注・注釈 ペストを媒介するノミに関する基礎研究の第9編
備考 昭和21(1946)年東京大学より医学博士号を得た博士論文の主論文の第9編
担当者の考察 18章75頁にもおよぶ長大な論文。13種類の実験について章ごとに記述しており、博士論文でも中心をなすと思われる。だが、ペストを媒介する蚤の工場的な大量生産法を追求するということ自体、純粋に学術的な関心からとはとてもいえない。結果的にペスト蚤の工業的大量生産のめどは立たず、生きた鼠がペスト蚤生産に必要な状況は変わらず、大量の鼠飼育や鼠狩りが行われることになる。謝辞に当時の蚤研究に関する専門家のネットワークが垣間見られる